日本テニス協会 強化本部長 土橋氏インタビュー


伊達公子×YONEXプロジェクトが、この6月より日本テニス協会および、大正製薬社の栄養補給飲料“リポビタン”と提携することが決まった。

新たなタッグが生まれることにより、伊達プロジェクトは、そして日本テニス界の育成システムはいかに強化され、どのような方向に向かっていくのだろうか? 日本テニス協会の土橋登志久強化本部長に伺った。

 

――伊達さんが昨年、“伊達公子×YONEXプロジェクト”を立ち上げた動きを、土橋さんはどのようにご覧になっていましたか?


土橋:まずは伊達さんが3年前に引退された時、次に何をやるのかなと思って見ていました。すると早稲田の大学院に行かれて、ハードコートが選手の強化に如何に必要かという論文を書かれたので、次の動きを考えているのだなと感じていました。

伊達さんがジュニア育成プロジェクトをヨネックスさんと立ち上げた時は、率直に嬉しかったです。テニス界で、やりたいことを見つけられたんだな……と。

私が、今年3月のジュニア育成キャンプを見に行きたいと言った時に、「是非来てください」ということで行かせて頂きました。伊達さんの指導理念は、選手を引っ張っていくというよりも、選手に自ら考えさせる手法。世界に出ていくために何が必要かを分かっている方ですから、本人は「私は指導者には向かない」と謙遜されていましたが、実際にはコーチング理念が既に出来上がっているなと感じました。

 

――協会との提携は、どのような流れで生まれたのでしょう?

土橋:今年1月の早い時点から、大正製薬さんと提携のお話がありました。大正製薬さんは、坂井利彰普及・育成副本部長とのお付き合いがあり、日本テニス協会としても「我々は育成が手薄なので、なんとかサポートして頂けませんか」とご相談させて頂いていたんです。

それと同じような時期に、坂井は、以前から親交の深い伊達さんから色んな夢やビジョンを聞いていました。それが、大正製薬さんと上手くリンクしたタイミングの良さがありました。ここまで駆け足で決まりましたが、伊達さんなら絶対に覚悟を決めてやってくれるという確信もあったので、協会としてもサポートさせて頂くという形で始まりました。

協会と大正製薬さんの提携プランとしては、中長期での育成部門にご協力を頂き、その中ではコーチのコーチング・ディレクターの配置や、コーチング・ディレクターが子どもたちの人間力向上のためのカリキュラムを作るという話もしています。そこが、伊達さんの理念と合致した点でもありました。今後は、伊達さんのキャンプにも協会からコーチング・ディレクターを派遣するなどしていけたらと思っています。

 

――今回の提携の目的や具体案は?

土橋:我々としては、伊達さんのお手伝いをしていくということですよね。伊達さんが経験されたことは、日本の中でも一握りの人しか経験のないこと。伊達さんが思う育成・強化をして頂き、その中で伊達さんが出来ないことがあったり、困った時に寄り添うということだと思います。

 

我々も昨年から、各県から11歳の子どもを代表として男女一人ずつNTC(ナショナルトレーニングセンター)に呼んで、ミニキャンプをやっています。そこに伊達さんに来て頂いてタレント発掘だったり、我々に「この選手伸びるかもよ」という助言を頂くなどしながら、どの地域にどのようなタレントが居るかという選手マップを描いていきたい。伊達さんもそれを自らのプロジェクトに活用して頂ければ、双方にメリットがあるかと思います。

 

――伊達さんが愛媛にITFジュニア大会を新設されることは、どう思われましたか?


土橋:大歓迎ですね! JTAで出来ることは限りがあるので、伊達さんと協力して出来るのは嬉しいですし、そこに大正製薬さんも加わり、志を同じくする方々と提携していくのはJTAのあるべき姿だと思います。

今、錦織圭と大坂なおみというトップ二人は凄く注目されていますが、私たちとしては、その下の世代を地道に積み上げていくことが凄く大切。そこに、伊達さんに側面から加わって頂くことで、色んなパスウェイ(順路)が生まれます。伊達さんが頑張ることは我々の夢だし、最終的にそこから日本の宝が生まれれば素晴らしいこと。この大会で、日本のジュニアが国内でチャンスを掴み海外に行くのは、良いことだと思います。

 

――開催地が愛媛県であることの意義とは?

土橋:テニス協会も、今後は地域のトレーニングセンターを充実させるなど、今回のようなプロジェクトを地域の方と共にやっていこうという志があります。特に愛媛は、大学王座(全日本大学対抗テニス王座決定試合)を開催したり、チャレンジャーをやろうとしたり、凄く地元のスタッフの皆さんの熱意も感じる土地。伊達さんが今回の大会を新設することで、地域のトレ―ニングセンターの軸になるのではと期待しています。またそうなれば、周りの四国のジュニアたちに競争や勢いが出てくると思うので、その点でも期待しています。

 

――伊達さんはこのプロジェクトを、少数精鋭の理念でスタートされましたが、その点はどうお考えですか?

土橋:色んなやり方があると思うし、伊達さんが考えられたプランも恐らくは、この先5年10年……わたしは20年やって欲しいですが、その中で変わっていくとも思います。今は4人ですが、今後は増えるのかもしれない。その増えた時には、我々が育成コーチを派遣するなどして手助けできればと思います。でも何より大切なのは、人数より、伊達さんの思いがジュニアに伝わる環境を作ることだと思います。

 

――先程「伊達さんが経験されたことは、日本でも一握りのもの」との言葉がありました。伊達さんの言葉や姿勢をご覧になり、印象に残ったものはありますか?

土橋:伊達さんの素晴らしいところは、目標を定めて行動すること。NTCでも、練習プランを一か月先まで入れていたのは、伊達さんくらいだと聞きました。やるからには、そこに至るプランを立てる。そして言った以上は、必ずやる。ゴールに至るプロセスを大切にする方だというのも、感じてきたことです。

なので今回のプロジェクトでも、そのプロセスは伊達さんの頭の中にあるでしょう。私たちはそれをしっかりサポートしながら、見届けたいと思います。

keyboard_arrow_up